インドで働いて気づいた思考の特徴
インドで仕事をしていると、インド人はフレームワークやケーススタディを好む という傾向があるように感じます。例えば、クライアント向けの企画書を作成することがあったとします。ほぼ100%の確率で、「過去の成功事例はありますか?」「ケーススタディを見せてください」と求められます。
また、営業面では既存の商品やサービスを販売するのは得意ですが、お客様の課題に合わせてカスタマイズしたソリューションを提供するのが苦手な傾向もあります。同様に、お客様側も新しいサービスを採用する際、過去の事例を重視することが多く、「他社の導入実績は?」「成功例はあるか?」といった点を強く気にするのが特徴です。
日本では、「まず自分の考えを述べ、その後に参考事例を補強する」といった思考プロセスを取ることが多いように感じますが、インドでは最初に「事例ありき」の考え方が根付いているように感じます。これは一体なぜなのでしょうか?
さまざまな要因が考えられますが、今回は 「教育システム」 に焦点を当ててみたいと思います。
インドの教育システムが思考パターンを決める
これは、インド人の友人から聞いた話ですが、インドの教育システムには、他国と比べて 「内容の詰め込み型」「暗記重視の傾向」 という特徴があるようです。この学習スタイルが、インド人の思考パターンに大きな影響を与えていると考えられます。
では、具体的にどのような違いがあるのか、日本と比較しながら見ていきましょう。
インドの教育システムの特徴
1. 内容の詰め込み型で難易度が高い
インドの教科書は 圧倒的な情報量 で構成されており、学生は膨大な知識を詰め込むことが求められます。特に理系の科目では、大学レベルの内容を高校で学ぶことも珍しくない ほどです。
実体験エピソード:インド人の家で見た参考書
ある日、インド人の知人の家を訪れたとき、大学生が使っている参考書を見せてもらう機会がありました。その参考書を開いた瞬間、私は驚きました。


ページにはびっしりと文字が詰め込まれ、図表はほとんどなし。
「これ、本当に学生が使うの?」と思うほど、情報量が多いのです。試しに少し読んでみましたが、構造的な説明よりも、事実や公式の羅列に近い印象を受けました。。
このような学習環境では、「要点を理解し、整理する」よりも、「どれだけ暗記しているか」が評価される 傾向になります。そのため、論理的にゼロから考えるよりも、「事例を元に学ぶ」「フレームワークに当てはめる」 という学習スタイルが定着するのも納得できます。
これは、私の日々の仕事でも実感することが多いです。インド人のメールや作成する議事録・報告書は、我々から見るととにかく文字量が多いのが特徴です。その一方で、理解をサポートするためのフローチャートや整理された表を作成するのがとても苦手な印象です。教えてもなかなかできるようになりません。それらを作成するためには、前段階として「構造化」が必要になると思いますが、そこが苦手なんだと思います。
2. 暗記重視の教育
インドの試験では、「考え方を説明する」よりも、「正しい答えを記述する」ことが求められます。これは歴史の学習方法にも表れています。
日印の「歴史」の学び方の違い
- 日本:歴史の出来事を学ぶ際、「なぜこの戦争が起こったのか?」といった背景を理解しながら学習する。
- インド:歴史のテストでは「〇〇年に〇〇の戦いが起こった」など、年号や出来事を正確に暗記することが重要視される。
例えば、日本で「明治維新」を学ぶ際には、その背景となる江戸時代の社会構造の変化や、西洋列強との関係などを考察します。一方、インドでは「1857年にインド大反乱(セポイの反乱)が発生し、〇〇が指導者だった」といった形で、出来事そのものを記憶する ことに重点が置かれます。
セポイの反乱とは?
1857年に起こったイギリス支配に対する大規模な反乱で、インド人兵士(セポイ)が中心となりました。この出来事は、インドの独立運動の初期の重要な抵抗として位置づけられています。
このように、背景や理由を考えるよりも「事実を覚えること」が重視される のがインドの教育の特徴です。
日印の「試験」の違い
- 日本:「選択式」や「短答式」も多い
- インド:「長文記述」が基本。
例えば、日本の試験であれば「次の人物のうち、明治維新に関わったのは誰か?」という 選択問題 になることが多いが、インドでは 「明治維新について200字で説明せよ」 という形式になり、記憶した内容をそのまま再現できるかどうかが評価のポイントになる。
インドの教育とビジネス思考のつながり
この教育スタイルは、ビジネスの場面にも影響を与えています。
- ゼロから考えるより、事例を参考にする方が効率的 → ケーススタディを重視
- 体系的な知識を当てはめる方が得意 → フレームワークを活用
- 論理的に組み立てるよりも、既存の情報を適用する傾向が強い → 事例ベースの思考
これは、インド人の思考が「独創性がない」ということではなく、「実証済みの成功パターンを活用する」という合理的な判断をしているとも言えます。
日本では「新しいアイデアを生み出すこと」が評価されますが、インドでは「すでに成功したやり方を適用すること」が信頼されるのです。
まとめ:なぜインド人はフレームワークやケーススタディを好むのか?
インド人がフレームワークやケーススタディを重視する背景には、「教育システム」が深く関係している ことがわかりました。
- 情報量が多く、内容の詰め込み型 → 「効率的に学ぶためにフレームワークを活用」
- 暗記重視で背景を考える機会が少ない → 「ゼロから考えるより、事例を活用」
この考え方は、教育だけでなく、仕事の場面にも影響を及ぼしています。もし、インドの同僚がケーススタディを求めることが多いと感じたら、「この背景があるのか」と思い出してみてください。
次回、彼らと仕事をするときは、「このようなフレームワークがありますが、あなたならどう使いますか?」と問いかけることで、より良い議論ができるかもしれません。