日本とインドで仕事をしていると、「資料作成」のスタイルに大きな違いがあるように感じます。日本人から見ると、インド人が作る資料は完成度が低いと感じることが多い。その理由は、日本では資料作成は意思決定や合意形成において非常に重要な役割を果たす一方で、インドでは「とりあえず伝われば良い」という考えが強く、資料そのものへの意識に大きな差があるように感じます。今回は、日本人とインド人の資料作成に関する違いと、その背景についてまとめてみたいと思います。
実際のトラブル事例
例えば、プロジェクトの重要な資料をインド人メンバーに作成してもらったところ、以下のような問題が発生することがよくあります。
- そもそも誤字脱字が多く、内容の信頼性が損なわれる
- 必要な情報が漏れている
- 途中で確認を求めても、「とりあえず完成してから」と言われる
- 直前に提出され、確認する時間がない
- レイアウトが崩れていて読みづらい
- (おまけ)色遣いがインド流。。。
インド人と働く機会のある多くの日本人に納得していただけると思います。わたしも、赴任当初は相当イライラしました。今もイライラすることが少なくありませんが、そこはぐっとこらえて「違い」として受け入れる努力をしています。(決して受け入れているわけではなく、受け入れる「努力」を日々しております。)
日本人の資料作成スタイル
1. 合意形成・意思決定のためのツール
日本では、会議やプロジェクトの進行において資料が欠かせませんが、資料は単なる情報共有ツールではなく、誰が見ても同じ理解ができるように作成されることが求めらると思います。特に合議制の文化が強いため、関係者全員が資料を読み、共通認識を持つことで意思決定をスムーズに進めるためのツールとして機能しているのではないでしょうか。
2. 細部までこだわる
誤字脱字はもちろん、レイアウトやフォント、色使いまで気を配り、「読みやすさ」「分かりやすさ」を徹底します。資料作成は単なる作業ではなく、「仕事のクオリティを示すもの」とすら考えがちです。
3. 事前確認・途中チェックが当たり前
資料を作成する過程で、上司や関係者に途中経過を見せて方向性を確認する文化があります。これにより、大きな手戻りを防ぎ、完成度を高めます。
インド人の資料作成スタイル
1. 情報共有のためのツール
インドでは、資料はあくまで「必要最低限の情報を伝えるためのもの」という位置づけです。内容が伝われば良いという考え方が強く、体裁や細かい表現にはあまりこだわりません。
2. 資料の優先度が低いため細部は軽視
インドでは、資料のクオリティよりも、その場のコミュニケーションや議論が重視される傾向があります。そのため、細部までこだわるよりも、まず内容が伝われば良いと考えられがちです。その結果、誤字脱字があっても大きな問題にはならず、構成が整理されていない資料が提出されることも珍しくありません。
3. 途中チェック文化がない
途中で上司や関係者にドラフトを見せる文化があまりありません。最終版になって初めて見せるケースも多く、「まず作ってしまおう」という考え方が根付いています。その結果、方向性がズレていることも多々あります。
なぜこれほど違いがあるのか?
1. 意思決定スタイルの違い
本質的な要因は、意思決定のスタイルだと思っています。日本では合議制が重視され、関係者全員が資料を通じて同じ情報を共有し、共通認識を持つことが求められます。そのため、資料のクオリティ=意思決定の質につながると考えられているのではないでしょうか。
一方、インドではトップダウン型の意思決定が一般的で、資料は上司が決断するための補助的なツールという位置づけです。この違いが、資料作成への意識差につながっていると考えます。
2. 仕事全体の進め方の違い
日本では事前準備と段取りを重視し、途中で確認・修正を重ねながら完成度を高めます。一方、インドでは「まずやってみる」「とりあえず出してから考える」というスタイルが多く、途中の確認や細かい修正は後回しになりがちです。
3. 資料作成スキルへの意識
上記の背景から、日本では新入社員の頃から「分かりやすい資料の作り方」を徹底的に教育されますが、インドではそのようなトレーニングが少ない傾向にあります。また、資料作成よりもプレゼンテーションや議論自体に重点を置く文化も影響しています。(逆にこれは日本が特殊すぎるような気もしています。想像でしかありませんが、「わかりやすい資料の作り方」がテーマの本があれほど豊富な国はないと思います。)
日本人がインド人と資料作成を進めるためのポイント
1. 資料の目的を明確に伝える
資料は「情報共有」だけでなく、「関係者全員が同じ理解を持つためのもの」であることをしっかり伝えましょう。とはいえ、言うは易し、根本的な働き方や意思決定の違いなので、これを理解してもらうのは結構ハードルが高いです。
2. 途中チェックを仕組みに組み込む
「途中で見せることが当たり前」という文化は、インドでは一般的ではありません。スケジュールの中に「ドラフトレビュー」を組み込み、途中段階でチェックするプロセスを明示しておくことが重要です。
3. フォーマットや見本を共有する
「どんな資料を作ればいいか分からない」というケースも多いので、具体的なサンプルやフォーマットを事前に共有しておくと、認識のズレを防ぐことができます。
サンプルやフォーマットの共有の重要性は以下の記事もご参照ください。
まとめ
日本とインドでは、資料作成に対する考え方や役割に大きな違いがあります。日本の「丁寧で正確な資料」とインドの「とりあえず伝われば良い資料」、どちらが正しいというわけではありませんが、文化の違いを理解し、うまく折り合いをつけながら進めることが重要だと思っています。
インド人と働くビジネスパーソンにとって、こうした違いを知ることは、日々のストレスを減らし、よりスムーズに仕事を進めるための大きなヒントになるはずです。
また、「どちらかが正しいわけではない」というのは重要なポイントで、日本の中で日本人と仕事をしていると気が付かないこともありますが、日本人の仕事の進め方も世界的に見たら割と特殊であることは認識しておいた方がいいと思います。