【映画】The White Tiger | インド在住者の感想

批評

概要

この貧困から何としてでも抜け出したい。そんな野心を胸に裕福な一家の運転手となった男は、持ち前のずる賢さで成功を目指すが…。ベストセラー小説の映画化。

NETFLIX公式ページ

キャスト
・Adarsh Gourav
・Rajkummar Rao
・Priyanka Chopra

ザ・ホワイトタイガー | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
この貧困から何としてでも抜け出したい。そんな野心を胸に裕福な一家の運転手となった男は、持ち前のずる賢さで成功を目指すが...。ベストセラー小説の映画化。
The White Tiger | Official Teaser Trailer | Netflix

総合評価

⭐⭐⭐⭐✨(4.5/5)

感想

インド在住者のTwitterで紹介されていたことがきっかけで見てみた映画。普段なかなか時間が取れなくて映画は見られないけど、デリーがロックダウンに入ったタイミングで少し時間ができたので、見てみました。

まったく事前知識もなく、レビューなども一切確認せずに、Netflixで検索して見始めましたが、しばらくして、いわゆる「ボリウッド」の映画ではないことに気づきました。登場人物の設定的な面もありますが、ナレーション含め、基本はほぼすべてのセリフが英語です。(ちなみに、私はハリウッド作品は字幕なしだとみられませんが、この映画は、ほぼ字幕なしで見られました。リスニング力は圧倒的にインド英語に偏っていることを実感……。)

それもそのはず、作者はインド人ですが、幼少期以降は家族でオーストラリアに移住し、教育は欧米諸国で受けていることに加え、作品自体がイギリスの文学賞であるブッカー賞を受賞した小説(邦訳「グローバリズム出づる処の殺人者より」)が原作になっているようです。さらに、映画自体もインド・アメリカの合作のようで、明らかにインド国内ではなく「国外」をターゲットにした映画のように感じました。

しかし、ところどころに欧米的な作品とはテイストが異なる演出があり、普段インド映画を見慣れない人にも見やすいのではないでしょうか?

インド在住者の視点としては、風景・登場人物間のやり取りなどに、様々な「インドあるある」を発見できるのと同時に、現地で暮らしていながらも直接見ることができないところを見られて、かなり楽しめました。

カースト意識の根深さ

この映画の中で印象に残ったのは、まず、「カースト(身分)意識の根深さ」でした。それは、①主人公とアメリカ帰りの若者と②主人公とその若者の田舎に住む両親やその取り巻き、の2つの関係性の対比の中に見ることができます。

主人公は、うまくチャンスを見つけて、実際に行動に移すことで、ある意味下克上的な成功を収めていくのですが、それはあくまで①の関係性の中においてです。①の関係性は、この若者のドライバーという関係なのですが、使用人とドライバーという主従関係がありながらも、インドとは異なる価値観、例えば自分のことをファーストネームで呼ばせたり、どちらかというと友達関係に近い関係性が見られます。

一方②の関係性の中には、厳然たる上下関係が存在しています。高圧的な態度、失敗をすると直ぐに手が出ること、そこに対等な人間関係は皆無です。主人公は①の関係の中で、自分が知らなかった新しい世界(新しい人間同士の関係性)を見ることができ、私にはそれが幸せそうに見えましたが、いざ②の関係に戻ると過去にメンタリティが顔をのぞかせます。ドライバーとして働く若者の婚約者(こちらはさらにアメリカナイズされている)には、「なんで言い返さないのか」的なことを言われるのですが、ある種のあきらめというか、「変えられないもの」としてとらえているように思います。(この背景としては、自分の利害関係だけでなく、一族(まさにカースト)の利害も絡んでくるんだと思いますが、そこを書き始めると、脱線が止まらなくなるので、いつか別記事で。)

このあたりの意識は、本で見聞きしたり・現地で現状の一端に触れる場面もありますが、やはり根深い部分の意識というのは理解できない部分があるのだと思います。

私利・私欲のために手段を選ばない

これは、インドビジネスに関わっていると、とても苦労する部分です。人を蹴落とすために変なうわさ話を流したり、政治的な動きをしたり。。。

この物語の中であれば、交通事故の身代わりとして使用人に罪を着せようというところもそうですし、大金を手にした主人公が殺人の指名手配を逃れるために警察に賄賂を渡す部分なんかがわかりやすいですが、一番印象に残ったのは、物語の冒頭で主人公が第2ドライバーから第1ドライバーになりあがるために、同じドライバー仲間の弱みを握って蹴落とすところです。主人公が仕える主人は、イスラム教徒を嫌悪しているのですが、ある時第2ドライバーがイスラム教徒であることを知った主人公はそれを好機ととらえ、その事実を主人に漏らすことで、第1トライバーの座を手に入れます。

インドで仕事をしていると、規模の大小はありますが、このような場面に出くわすことが少なくありません。怪しいリークの類のメールは本当に多いです。

もちろん、これは国を問わず、多かれ少なかれ見られることだと思いますが、インドで見聞きするそれは、知って気分が良くないものが多いですね。

サッカーでいうと「マリーシア」でしょうか。私はプレイヤーとしてはずっとサッカーをやっていて、今でももちろん好きなんですが、ファールをもらうためにわざと倒れたり、必要以上に痛がったりすること、審判へのアピールなどが見苦しいと感じることが少なくありません。また、それをマリーシアと呼んで、世界で勝つための要素だとする風潮も正直あまり好きじゃないです。(その点、プレイヤーとしての経験はゼロですが、ラグビーは見ていて気持ちいいから、大好きです。)

印象的なエンティング

あまり詳細に書くとネタバレになってしまうので書きませんが、エンディングの数分間は非常に印象的でした。

主人公は紆余曲折(と端折れないくらいの出来事ですが)の後、タクシービジネスで成功を収めるのですが、それは従来の成り上がりの手段であった「犯罪」「政治」というような人を出し抜くような方法ではありません。自社が抱えるドライバーを主従関係ではなく、仲間・ファミリーとして扱うことが成功のカギとして描かれており、その対比が、作者が物語を通じて表現したかったことの一つなのでしょう。従業員の宗教を問わず、かつ彼らを大切にするという価値観を持っている様子が語られます。しかもその成功の舞台が、物語の序盤の舞台となったデリーではなく、先端IT都市であるバンガロールへと変わっています。

このように従来のインドの価値観から変わりつつある様子を見せながら、中国の要人がバンガロールを訪問したシーンでこんな発言があります。「白人の存在感は衰退していて、生きているうちに彼らの時代は終わるだろう。今世紀は黄色(アジア人)と茶色(インド時間)の時代だ。」(「”White people are on their way out. They will be finished within our lifetime. It’s the century of the brown man and the yellow man”」)

スピード感があって、いい意味であまり小難しいメッセージがなく、すっきりと終われる感じです。

成長するインドという国の裏側を垣間見られ、かつエンタメとしても優秀。いい映画だと思いました。

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